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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)2976号〔1〕 判決

本籍

京都市上京区紫野宮西町一六番地

住居

同市上京区智恵光院通り芦山寺上る西社町 宍戸栄雄方

西陣織物京華協同組合事務員

笹壁秀道

昭和二年九月九日生

右に対する傷害、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、公職選挙法違反被告事件について、昭和二七年二月二五日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し原審弁護人小林為太郎から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決及び第一審判決(但し無罪を言渡した部分を除く)中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

但し三年間右懲役刑の執行を猶予する。

第一審判決判示第三の公職選挙法違反の罪につき被告人を免訴する。

訴訟費用中第一審において証人吉田清に支給した分は被告人と当審における分離前の相被告人平田敏夫、同山中新三、同森田高明、同清郷茂樹の連帯負担、証人古川貞蔵、同小島清蔵、同古川喜蔵、同南江善兵衛、同滝野ミキ、同長谷龍太郎、同井上康澄、同南部成孝に各支給した分を除くその余の各証人に支給した分は被告人と右相被告人平田、同森田、同清郷の連帯負担、証人立花正次郎、同横田数之助に支給した分は被告人の単独負担、原審における訴訟費用は被告人と右相被告人四名の連帯負担、当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人小林為太郎の上告趣意について。

原判決の判示した趣旨は、本件控訴趣意第一点並びに第一審判決の判示第一の(一)乃至(三)及び第二の(一)の事実と右控訴趣意第一点に対する原判決の説明とを対照して読めば、原判決は、本件第一審判決の判示第一事実のように、被告人笹壁、共同被告人平田、同森田、同清郷の四名が犯意を共通し共同して判示上京税務署員小林敏明、同土肥国隆、同吉田清、同長村勇二郎、同村尾嘉夫、同三宅喜代一、同島崎豊の七名に対し各別にそれぞれ暴力行為等処罰に関する法律一条一項の違反行為を為し因て右署員中小林敏明、三宅喜代一、島崎豊の三名に対し各別にそれぞれ傷害を与えたような場合には、右三名を除いた他の四名の被害者に対する暴力行為等処罰に関する法律一条一項違反の犯罪が成立するのは勿論、そのほか、右三名の被害者に対するそれぞれの暴力行為の結果たる傷害は、その原因たる違反罪の構成要件の外にあつて、他の罪名たる傷害罪に触れ右違反罪に吸収されないから、被告人笹壁、共同被告人平田、同森田、同清郷に対し右四名の被害者に対する暴力行為等処罰に関する法律一条一項の外右三名の被害者に対する刑法二〇四条に問擬したのは正当であると判示した趣旨と解することができる。そして、第一審判決の判示第一事実の場合には、右各被告人に対しそれぞれ四個の暴力行為等処罰に関する法律違反と三個の傷害罪が成立すること明らかであるから、原判決の説示は、結局正当である。所論判例は、一個の暴力行為等処罰に関する法律違反の行為が傷害の結果を生じた場合の両者の関係についての判例であつて、本件とその場合を異にし本件には適切でなく、従つて、所論は採用できない。

しかし、職権を以て調査すると、原判決の是認した第一審判決が被告人笹壁に対し判示第一の罪と併合罪の関係あるものとして認定処断した判示第三の公職選挙法違反の罪については、その後昭和二七年政令一一七号大赦令一条五号により大赦があつたので、原判決及び第一審判決は、被告人笹壁に関しては、刑訴四一一条五号により破棄を免れない。

よつて、被告人笹壁に対しては、同四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三七条三号により主文一項、四項のとおり破棄、免訴し、第一審判決の判示第一の事実につき法令を適用するに、前記四名の被害者に対する暴力行為の点は、暴力行為等処罰に関する法律一条一項に、前記三名の被害者に対する傷害の点は刑法二〇四条、六〇条に各該当するところ各懲役刑を選択し、右は、同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条に則り犯情最も重しと認める三宅喜代一に対する傷害罪につき定めた懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を主文二項の刑に処し、情状により同法二五条を適用して主文三項のとおりその刑の執行を猶予し、なお訴訟費用については、刑訴一八一条、一八二条に従い主文五項のとおり負担させるものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

検察官 安平政吉出席

(裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判長裁判官岩松三郎は退官につき署名押印することができない。裁判官 斎藤悠輔)

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